制作秘話
05
横浜の役者としての
覚悟を垣間見た日々
本作で横浜の“役者としての覚悟”を感じたのは、何も水墨画のシーンだけではない。撮影中、横浜と監督は幾度となく話し合い、時に横浜から監督に「もう1回挑戦させて下さい」と直訴する姿も見られた。霜介が初めて千瑛の描いた椿の絵を見て、理由も分からず涙を流すシーン、千瑛と共に自分の過去にまつわる場所を訪れ朝日を見ながら涙するシーンなど、重たい芝居場で横浜は意を決したように監督にリテイクを申し込む。「たとえ僕がOKを出していたとしても、横浜くんの気持ちは尊重したかったので必ずもう1回やりました。結果もう1度できてよかったなと思いましたし、少しでも作品をいいものにしたいという気持ちが伝わってきたのでスタッフも皆理解してくれました」(監督) 横浜も「監督から“1回目より2回目の方がよかった”という言葉をいただいた時は、本当に嬉しかったです」と振り返っていた。最も横浜が監督と意見交換をしていたのが、霜介というキャラクターの温度感。過去に明らかに何かを抱えている霜介だが、映画としてはそれをあまりに冒頭で出してしまうと、登場から“いかにも”な空気が観客に伝わり過ぎてしまう。「霜介の過去を考えると最初からどんよりしていてもおかしくはないんですが、映画のストーリー運びとしてはなるべくそれは避けたい。もちろん横浜さんは役の背景を知っているので、そういう(暗い)芝居をしたくなるのは当然なんですが、役者としての誠意と映画のテクニカルな面とで悩まれていたと思います」(監督)監督は決して横浜に「これが正解だ」と無理強いすることはなく、共に話し合いながら徐々に霜介のテンション感や芝居のトーンをシーンごとに探っていった。
11月、撮影は無事全編終了。クランクアップ時には東雲氏から直筆の“昇り龍”の水墨画をプレゼントされ、満面の笑みを浮かべていた横浜。「約1か月東京を離れ滋賀で撮影できたおかげで、撮影にとても集中できました。霜介と同じく水墨画の魅力を僕も知ることができたので、この映画で1人でも多くの人に水墨画を知ってもらえたらいいなと心から思っています」